【フレキシブル基板にチャレンジ!4】電卓編:メンブレンスイッチ

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エレファンテック技術ブログ新企画、東工大の学生が初めてフレキシブル基板を使って、実際に電子工作する試行錯誤のレポートです。 失敗を繰り返し、本人たちは落ち込んでいることも多いのですが、読者のみなさん目線からすると、逆にものすごく参考になるのではないでしょうか。 とても面白いシリーズです!

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こんにちは。高橋です。
今回の電卓のコンセプトに於いて重要な要素である、メンブレンスイッチ(またはメンブレンシート)とキーマトリクスについて解説します。

目次

メンブレンスイッチ

採用の理由

電卓等のコンソールがあるデバイスを作る上で、入力に何を用いるかというのは重要な選択になりますが、こういった個人レベルの電子工作ではタクトスイッチというスイッチを使う傾向が強いです。一番の理由は安さですね。

タクトスイッチ
△左からトグルスイッチ、マイクロスイッチ2種、スライドスイッチ、タクトスイッチ2種、DIPスライドスイッチ

ただ、せっかくフレキシブル基板を使った工作をするのなら、「ペラペラで曲げられる」メンブレンスイッチを採用すればキーパッドを丸ごと曲げられるようにできるんじゃないか…というのが、今回の丸められる電卓のアイディアの元でした。
では、ペラペラで曲げられるスイッチとはどのような構造をしているのでしょう。

メンブレンスイッチの構造

メンブレン(membrane)とは直訳で膜という意味です。つまり膜のスイッチということですが、これはこのスイッチが名前の通り数枚の膜で構成されていることから来ています。

メンブレンスイッチの構造。この3枚のシートを重ねます
△メンブレンスイッチの構造。この3枚のシートを重ねます
横からの図
△横からの図
指で押されると電極同士が接触!
△指で押されると電極同士が接触!

図のように、スペーサーと呼ばれる穴の開いたシートを挟んで電極がプリントされた2枚の接点シートが向かい合った構造になっています。
スペーサーのおかげで普段は電極同士が接触することはありませんが、指などで押されると電極が触れ合うためスイッチとして機能するという仕組みです。

特徴

このメンブレンスイッチのメリットとして、
* 大量生産によってかなり安価に製造できる
* 防塵性・防水性に長ける(シート部を簡単に密封できるため)
* スイッチをとても薄くできる
等が挙げられます。
この特性を活かし、メンブレンスイッチは洗濯機や浴室の操作パネル等の水回り、また家電製品のリモコン等に多用されています。
また、一般的なノートPC、デスクトップPCのキーボードにもメンブレンスイッチは使用されています。


(株)ケイ・アンド・ディーさんの提供している製品です!

また、デメリットとして
* 押したときの感覚(クリック感)が無い
* シートの一部が破損した場合シート全体を交換する必要がある
* 引っ掻き等のダメージに弱い

等が挙げられます。
この特性のため、大型機械や工具の操作のボタンなど、スイッチを押した感触があったほうがいい用途にはあまり使われません。
ただ、メンブレンスイッチの中にはメタルドームやゴムドームなどを併用してクリック感を生み出しているものもあり(先述したPCのキーボードもその一例です)、残るはダメージに関する問題のみです。

メタルドームを採用したメンブレンスイッチの図
△メタルドームを採用したメンブレンスイッチの図
ゴムドーム採用
△こちらはゴムドーム採用

ちなみに、一般的なメンブレンスイッチでは導通部に銀ペーストが使われます。また接点部以外の場所もスペーサーで絶縁されるため、レジストを塗布しないものもあります。
銀ペーストは酸化しやすく、また硬度的にも弱いためコネクタ等の接続部や接点部には向いていません。そういった箇所にはカーボンを上から塗布して保護することが多いですが、安価なメンブレンシートではそれすらも行われないことが多々あります。

メンブレンスイッチを採用した製品

今回の電卓製作では、メンブレンスイッチの薄さを”丸められるキーパッド”として活かす計画です。
このような利用の仕方をしている製品に、サンワサプライの「曲げられるキーボード」SKB-BT14(Amazonのリンクです)等があります。普通のキーボードと違って表面が完全にシリコンで覆われているためある程度の防水性もあるという製品です。

△SKB-BT14の画像です

今回の電卓ではキーパッドを防水にするつもりはありませんが、それでもシートの隙間に入り込まなければいくら水がかかっても機能に問題はありません。

キーマトリクス

特徴と採用の理由

今回の電卓は計18個のキーを使う予定です。
電子工作の殆どがスイッチを使うものですが、スイッチ数が少ない場合は大抵1個のスイッチに1本のピンを繋いで状態を読み取ります。

ですが、スイッチの数が多くなってくると、マイコンやICのピンの数が足りなくなることも多々あります。今回はピン数の多いマイコンを採用しましたが、片面フレキシブル基板を使う関係上配線上の制約も出てきます。

使用ピン数は少なければ少ないほど良い…ということで、それを大幅に減らせるシステムを使うことが決まりました。
それがキーマトリクスと呼ばれるシステムです。

キーマトリクスの原理

キーマトリクスの仕組みを説明します。
まず、簡単のため3×3で9個のスイッチを並べてみます。スイッチ一つ一つに信号線を用意した場合は9本の信号線(加えて1本のGND線)が必要ですが、下図のように配置することで6本の信号線のみで済むようになります。

縦の3本線はマイコンのOUTPUTに、横の3本線はINPUTに繋がって機能しています。
1~9の数字は対応するスイッチを表しており、線がクロスするポイントで電気的に繋がっているわけではありません。

マイコンがキー情報を読み取るには、3本のOUTPUTのうち1本だけをHighレベルにして、INPUTのうちHighになっているピンを探すといった方法を採ります。


△青色の数字が押されているスイッチを、赤色の線がHighになっているラインを表しています。

図のように7が押されていると、OUTPUT1がHighになった時にINPUT1がHighとなります。
逆に言えば、INPUT1がHighになっているのを検知した場合7が押されていると判断できる、というわけです。

これを各々の出力ピンで行うことで、9個のスイッチ全ての状態を読むことができます。

今回の電卓では出力側5本×入力側4本なので、9本の信号線で20個のキーの状態を読むことができます。

キーマトリクスの弱点

キーマトリクスにも弱点があります。それは、複数個同時にキーが押されている場合にキーの情報が不確実になってしまうことがある点です。
例えば、下図のような状況です。

この場合押されているのは5・7・8の3つですが、OUTPUT1がHighレベルになると、INPUT1とOUTPUT2のラインを介してINPUT2までHighレベルになります。
こうなると4まで押されていると判定されてしまうのです…!

この困った現象はゴーストキーと呼称されます。
これを防ぐには、8番のポイントでINPUT1からOUTPUT2への電流を止めるためにダイオードを設置する必要があります。

こうすればINPUT2まで電流が流れ込むことはないので、誤検知が避けられるという仕組みです。
ただ、今回の電卓では同時押しをする機会が無いので、ゴーストキー対策のダイオードは実装していません。

キーマトリクスを採用した製品

キーマトリクスの強みであるピン数の削減が最も活きるのは、スイッチの数が多い製品です。
その最たるものがキーボードでしょう。100個を超えるキーを持つキーボードの制御に、大人しく100本のピンを使っていては非効率です。
また、ゲームのコントローラや家電製品のリモコンなどでもよく使われています。

ところで、キーボードは特に同時押しをする機会が多いものですが、大抵のメンブレン式キーボードではコストカット等の理由でそういった対策は取られていません。
先述したようにメンブレンシートには銀ペーストとカーボン程度しか使わないのでフレキシブル基板は殆ど採用されず、従ってダイオードを実装できないからです。
代わりに、キーのうちよく同時押しに使われるもの(Ctrl,Shift等)を他のキーのマトリクスと分離することでゴーストキーの発生を避けています。

まとめ

今回はメンブレンスイッチとキーマトリクスについて解説しました。
例えば何か電子工作をするとき、時折ケースなどのハードも作る必要が生じます。そこにスイッチを実装したい時、3Dプリンタ等でケースを作るならばスイッチの大きさも考えて設計する必要があります。
しかしこのメンブレンスイッチならば、薄いシートを表面に張り付けるだけなので大して手間のかかる設計ではありません。便利です。

ただ、個人製作では既製品の流用以外にはほとんど利用されていません。やはり大量生産ありきのものなので単品ではコストがかさんでしまうのが辛い所だったというわけなのですが、それもエレファンテックのフレキシブル基板 P-Flex™の登場のおかげで安く作れるようになります。
或いは、将来的に家庭でメンブレンシートを印刷できるプリンターなどが開発されるかもしれません。
個人でもメンブレンシートを沢山使うような時代も間もなく来るのではないでしょうか。

次回は基板設計部のおまけ編、フレキシブル基板用のコネクタについての解説です。

参考文献

http://www.nagateku.co.jp/product/qbox.html
http://www.kandd.co.jp/custom.html

   

   

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