生産管理システム開発の歴史

【製造業ベンチャーでソフトウェア開発と業務効率化をした話】シリーズ

「ソフトウェアによる効率化が製造業のベンチャーでも欠かせない」という思いから、FPC 製造のためのソフトウェアを自社開発してきた中で得られた成果そして苦労したところ良かったところなどの体験談を紹介していきたいと思います。

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はじめに

「製造業ベンチャーでソフトウェア開発と業務効率化をした話」シリーズの第二弾として、自社開発している生産管理システムの紹介をします。現在主に開発しているソフトウェアで、(市販のソフトウェアに比べるとまだまだですが)広範な領域にわたるため複数回に分けて紹介をします。

この記事では、今では毎日使われ生産管理に貢献しているプログラムがどのようにして始まり成長していったのか、P-Flexが販売開始された頃まで遡って開発の歴史を紹介します。

人による管理

時期:
〜2017年1月

P-Flex(当時の名前はAP-2)は2017年1月に非公開で販売開始されました。

この時期はいわゆる「プロダクト・マーケット・フィット」ができているかを測る段階で、一般販売をする前に非公開で販売することで製品の良し悪しを調べていました。そのためまだ生産量も少なく、注文が入ると製造担当者が品質を管理しながら必要数に達するまで生産して出荷するという、いわば「人で管理する」状態でした。

製品開発など他に優先すべき仕事がたくさんある中で、特にこれ以上の厳密な管理をしていく考えもなく必要性も感じていませんでした。

紙とスプレッドシートによる生産管理

時期:
2017年1月〜5月
問題:
生産情報を一覧できない
解決:
紙とスプレッドシートで生産情報を一覧する仕組みを作った

ところが予想外に反応が良く、1ヶ月もしないうちに人による管理では難しくなる程度に注文が増えました。

この時点でソフトウェアの購入を含めた電子的な生産管理の導入も検討しましたが、必要な機能がまだ非常に少なかったことやいきなり電子的な管理方法を導入することの製造担当者への負担を考慮して、まずは「生産管理シート」と呼ばれる紙をWordで作成し、製造する基板1枚につき生産管理シートを1枚を記入してもらうことにしました。また、注文ごとの基板を管理するためにドキュメントファイルを購入し、生産管理シートと製造中の基板を全てファイルに入れて管理することとしました。

フレキシブル基板 の ドキュメントファイルと生産管理シート 
ドキュメントファイルと生産管理シート(内容はダミー)

当時の印象としても非常にプリミティブな管理方法でしたが、少なくとも何かしらの管理が始まった時点ということでとても印象に残っています。

初めは紙の記録だけでしたが記録を始めるとすぐに一覧が見たいという気持ちになり、GoogleフォームとGoogleスプレッドシートを用意してアルバイトの学生に紙の記録を打ち直してもらっていました。

ソフトウェア・紙・スプレッドシートの併用

時期:
2017年5月〜10月
問題:
データ入力の手間・データの不正確さ
解決:
生産管理システムの開発(まだ実現せず)

2017年5月、4ヶ月程度の非公開販売の期間を経てAP-2の一般販売が開始されました。同時にオンラインでの見積・注文が開始され、その記録とSlackへの受注通知の仕組みが作られました。これが後の生産管理システムの始まりですが、この時点では注文の情報を表示しているだけで生産管理と呼べる機能は特になく、生産管理のためには相変わらず紙とスプレッドシートが使われていました。この「ソフトウェア・紙・スプレッドシート」という構成はこの後も長い期間続くことになります。

この後、製造工程の複雑化に伴い記録される項目はどんどん増えていきますが、まだ流動的な運用方法をソフトウェアとして実現するのはリスクが大きく、初めはスプレッドシートで運用方法を固める方針を意図的に取っていました。その結果として、新しい機能はスプレッドシートにどんどん追加されていく一方でソフトウェア側が大きくは更新されないままでした。

ところがこの時期更に生産量が増加していったため、紙に記録してからフォームに入力するという二度手間や、スプレッドシートのデータがしばしば不整合な状態になるなど様々な問題が起きていきました。今振り返ってもデータ管理という意味では特に辛かった時期で、「紙に書かれたデータをフォームに入力するアルバイト」、「入力されたデータを改めて確認するアルバイト」など人手を増やしてなんとか対処しようとしたものの、誤って編集されやすいスプレッドシートがそもそもデータの保存に向いていない点や、データの増加に伴って人手がどんどん必要になる状態はどう考えても理想からほど遠く、根本的な問題の解決が必要なことは明らかでした。

問題の解決とはもちろん紙とスプレッドシートを使うのをやめて全てのデータをソフトウェアで管理することですが、スプレッドシートが巨大になりすぎ同等の機能を開発するには時間がかかってしまうことから、検討はしたものの実現はしていませんでした。

フレキシブル基板 生産管理スプレッドシート
生産管理スプレッドシート(横スクロールバーの短さからスプレッドシートの大きさが分かる)

生産管理システムへの取り組み

時期:
2017年10月〜2018年6月
問題:
データの入力の手間と不整合、詳細な生産情報の把握、生産状況全体の把握
解決:
データ入力の効率化、生産情報の記録・一覧表示

2017年10月、AP-2が販売されて5ヶ月以上が経過し(AP-2はこの間にP-Flexと改名)、ついに生産管理システムの本格的な開発に取り組むことが決まりました。また、全体を一度に開発して既存のスプレッドシートをまとめて置き換えるのではなく、可能な部分から少しずつ置き換えていくという方針を決めました。開発の長期化を懸念したことと、運用方法の突然の変更による現場の混乱を防ぐことが理由です。

次に開発項目の決定ですが、まず目の前の問題として次のような項目が浮かび上がりました。

  1. データの手入力による「入力の手間」と「データの不整合」
  2. 「どの基板がどの工程にあるか」などの詳細な生産情報の把握
  3. 「予定通りに生産できているか」などの生産状況全体の把握

1は前節で述べたことです。そして、2018年1月に工場が移転し広くなり生産状況が目視で把握できなることは分かっていたため、2と3のようなミクロとマクロ双方の情報の把握が課題になることも想像されました。これらを踏まえて決定された開発項目は大きく分けると次の二つになります。

  • データ入力の自動化・効率化
  • 各基板・各工程の生産情報の一覧

データ入力の自動化・効率化

まずは入力部であるGoogleフォームとスプレッドシートをソフトウェアに置き換えていきました。ただフォームと同じ機能を持つソフトウェアを作るだけではなく、入力データを再検討してあまり意味のない入力項目を削ったり、反対に必要だが記録されていない入力項目を追加したりすることで集めるデータの改善や、より簡易な入力形式の導入も並行して行いました。

さらに、データ入力部を自前のソフトウェアで置き換えることで、以前から目指していたバーコードの導入も実現しました。各工程で入力している注文IDと様々な生産情報を手入力することによる手間と誤入力を解決するのが目的です。実際にどの項目をバーコードで入力するかは、全項目から注文IDのみまでと広い範囲で検討した結果、特に間違いが許されない注文IDのみとしました。キーボードを使う方が楽な入力項目が一つでもある以上は、その他の項目をバーコードに置き換える利点が少ないためです。今後キーボード入力されている項目の誤入力を減らすためには、そもそも製造装置や計測器から出力される値を人が読み取って入力するのではなく直接生産管理システムに記録される仕組みを作ることが必要だと考えています。

ちなみにバーコードの種類には、QRコードより安価に据え置きリーダーが入手しやすく、また小売店のレジで使われているEANコード(JANコード)と比べアルファベットも含められて便利なCODE128を採用しました。CODE128は情報を密度高く載せることができ、物流など産業界でも幅広く使われている形式です。

CODE128EANコード
(左)CODE128 (右)EANコード
実際に使用しているバーコードリーダー
実際に使用しているバーコードリーダー

各基板・各工程の生産情報の一覧

関数が複雑に張り巡らされやすく表現力の限界もあるスプレッドシートでは集めた情報を充分に表示することができず、生産管理者は細かい数字を読み取って現状を把握する必要がありました。また現場の製造担当者にはスプレッドシートを読みこなすことが難しく、生産管理者との口頭のやり取りが必須になっていました。工場の規模が大きくなると当然この状況では成り立たなくなるため、生産管理者・工程ごとの製造担当者などそれぞれの立場の人向けに理解しやすい画面を作ることを目標にしました。

初めに、工程ごとの生産情報の入力がソフトウェア化されたことにより、それらの情報を一覧する画面が作られました。入力が効率化されたことでこれまでよりリアルタイムに情報も更新され、「現在どのシートがどの工程にあるのか」という情報が確実に手に入るようになりました。次に生産管理者のために生産一覧画面が作られました。この画面では生産が納期と共に一覧できるだけでなく、前述のリアルタイムに更新される生産情報を元に「どの工程に基板が何枚あるか」というような生産状況全体を俯瞰する情報も確認できるようになりました。そして最後に、各工程の製造担当者向けの画面として、「この工程で作るべき生産の一覧」「この工程待ちの基板が何枚あるか」「あと何枚生産すればいいか」といった情報を表示する機能を作りました。

このように開発を続けた結果、2018年の6月にはついにGoogleフォームとGoogleスプレッドシートの使用が原則的に中止されました。紙の生産管理シートは現場での使い勝手がよく現在でも使われていますが、完全なペーパーレス化を目指した検討も進めています。

めっき後工程の生産一覧画面
めっき後工程の生産一覧画面(データは開発画面のものですが、一部加工しています)

統合基幹業務システムに向けて

時期:
2018年6月〜
問題:
量産に向けた安定稼働
解決:
統合的な基幹業務システムの開発

現在は今後見込まれる量産に向けて、安定した工場稼働ができるようにソフトウェア面からサポートしていくのが大きな目標です。

具体的には、より詳細な生産情報の可視化のためにデータ入力の簡易化を目指してRFIDの導入、また資材の在庫が不足する問題も発生し始めているため在庫の可視化と自動発注、その他にも製造装置の稼働率工場を目指した装置の監視と異常検知を目指しています。

まとめると

  • より発展した生産管理
  • 資材管理
  • 設備管理

と、これまでの「生産管理システム」という枠を越えて、MRP(資材所要量計画)・ERP(企業資源計画)ソフトウェアのような統合基幹業務システムの開発が必要だと考えています。

次回の予告

次回は生産管理システムの重要なテーマの一つである製造中の基板の追跡について、担当を変更して書きます。この記事では軽く触れる程度でしたが、実際にどんな情報をどのように取得しているのか、現在の問題は何か、今後は何を開発するのか、などが詳しく説明されると思います。