【めっき自動搬送装置ができるまで】[4]

こんにちは、インターンの北島です。

前回は搬送装置に必要不可欠な、ステッピングモータの動かし方についてお伝えしました。

PC→マイコン→ドライバ→ステッピングモータという流れがお伝えできたかと思います。

第1回

第2回

第3回

続きまして今回は、ついに(!)、実際に試作をした際のことを書きたいと思います。

以下が実際に作った試作品の動作確認動画です。

第1回の記事に載せた現状の動画とはだいぶ違いますが、だいたい同じことをしているのがわかるかと思います。

また、第2回の記事で書いた補強について、この動画では四隅を補強するタイプ(角を斜めにつないでいるプレート)と対角線をつなぐタイプ(左端面のワイヤー)を両方使っていることがわかります。

実際に作ってグイグイ押したり引いたりして比較してみた結果、対角線をつなぐタイプの補強を本番では採用しました。

水平方向原点復帰の仕様

前回の最後に、モータを動かしている間に少しずつずれてしまう可能性があるので原点復帰をしてあげる必要があるということを書きました。

原点復帰は基本的には、「ある位置に固定されているセンサが反応するまでゆっくり動かす」という動作です。

センサが反応した場所を原点として再登録することで、原点復帰をしたあとは常に同じ場所が原点となります。

今回、センサは「リミットセンサ」を用います。名称はメーカーによって様々です。

例えばオムロンの製品はこちら。「小型基本スイッチ」という名称です。ものが近づいたり接触したことを検知するセンサです。

これをレールに取り付けることで、レールの一定位置にキャリッジが来たときに反応することになります。

前回書いたとおり、モーターを回すのには目標位置・初速度・加速度・最高速度を送信します。原点復帰では目標位置を実際よりも遠くに設定し、最高速度を遅くすることでセンサに当たるまで動き続けるという動きを実現します。

センサが反応したら一時停止して、そこを原点に設定すれば原点復帰が完了します。

垂直方向原点復帰の仕様

水平方向は一般的な原点復帰と同様の仕様です。

しかし、垂直方向の原点復帰は少し個性的にせざるを得ませんでした。

理由は以下のとおりです。

上下方向のモーターは左右に1台ずつあり、両方のドライバにマイコンから全く同じ信号が送られています。片方が「脱調」してずれてしまっても左右が全く同時に動くので、「右側だけセンサに接触して左側は接触していない」という状況になりかねません。

そうなると右側は原点復帰できているのに左側はできていないという、斜めに傾いている状態になってしまいます。左側をセンサに接触させようとすると右側も動いてしまい、右側がセンサを通り過ぎてしまうことになります。

それを避けるために、左右のモーターの印加電圧を切ってしまうことにします。第3回で説明したENAという信号で、モーターが勝手に回らないように抑えておく機能です。これをOFFにすることでモーターは自由に回転できる状態になります。

垂直方向でそれを行うとどうなるでしょうか。

モーターが空転してアームが落下します。

落下した先のある位置で受け止めて、センサで検知しましょう。そこでENAをONにすることでモーターに電圧がかかり固定されます。

落下は左右で別々に起こりますから、左右両方が落下しきったあとでENAをONにすれば「右側だけセンサに接触して左側は接触していない」という上記の状況は起こりえません。

垂直方向の原点復帰は以下のようになります。

  1. ENAをOFFにする
  2. 左右のアームが落下しきったことをセンサで検知する
  3. ENAをONにする

左右のアームが落下した先を受け止めるためには、優しく受け止めつつ、毎回同じ位置で止める必要があります。

もし金属同士がぶつかると金属粉が発生します。これが浴槽の中に混入(コンタミネーション)すると生産に悪影響がでますので、避けなくてはなりません。

また、機械的にもぶつかり合うような力は「撃力」といい、物を載せたりする力とは区別して扱わなくてはいけません。部品を破損させたり、衝撃でネジが緩んだりなど構造物に良くない影響が多いので避けるべきです(逆に言えば固着したネジを緩めたいときなどはぎゅっと力をかけるよりもがつんと叩いたほうがよかったりします)。

金属同士の衝突を避けるために、レールの根本にショックアブソーバを設置しました。

レールの中で下を向いている黒いゴムヘッドが押し込まれることで衝撃を吸収するわけです。

リミットセンサはこのように設置しました。

動画を見ていただくと、アームが落下して原点復帰をしている部分が見てわかると思います。

面白い動きですが、必要にかられてやむなく導入した動きなのです。

試作してみて動かない、もしくは違う位置で止まってしまうようであれば他の方策を考える必要があったため、この垂直(水平方向も)原点復帰は試作で確認するべき重要事項でした。

とはいえ、これらの原点復帰などの実装は僕一人では難しく、もうひとりのインターンの方に大部分を作ってもらいました。そのおかげで無事にどちらの機能も実機で動くことが確認でき、本番でも同じ仕組みで原点復帰することが決まりました。

やはり困ったときに相談できて、協力してくれる人が周囲にいることが大切だなと感じます。

組み立ての様子

少し順番が前後しましたが、全体の組み立ての様子をお伝えします。

まずは外枠を組み立てていきます。

全長2mなので本番(10m)の1/5で作成しました。それでも組み立てていくのはかなり大変です。

一面ずつネジ止めしてから、三面をつなげて立体にしていきます。

キャリッジとかごも組み立てたのですが、写真を撮っていませんでした…。

とりあえず概形が分かる程度に組み立ちました。

この時点ではまだ仮組みですから揺らしても動かない程度の力でネジを締めています。ここまで組み上がったら次は本締めですから、これらのネジを1本1本、時間が経っても緩まないように締め直しました。

100本くらいネジを使っていますから、腕を伸ばしたり腰をかがめたりしながら締め直していくのは結構な重労働でした。

組立方法やネジの止め方など、予めマスキングテープにメモをしておいて部材を間違えないようにしました。

アルミフレームだけでも結構な量がありましたから、最初に整理したのは正解でした。

ステッピングモータを設置して配線します。

センサも含めると電線がすごい数になりました。写真を見てもすごいですが、上の動画を見てもらえると右端にたくさんの電線が垂れ下がっていることがわかると思います。1つでも間違えると事故になりますから、マークを付けながら慎重に作業しました。

試作してみて

試作してみてわかったことはたくさんありましたし、細かい修正をたくさん加えることとなりました。上の動画と第1回の動画を見比べていただけると修正点が見えるかもしれません。

  • 進行方向にグラグラ揺れている→上下のレールが独立してしまっているのは良くないから結合して剛性を増やそう。
  • 軽量化のためにモーターやプーリーが乗っているフレームを片持ちで短くしていたが剛性不足→左右つなげて1本にしてしまおう。

などなど修正はたくさん加えました。

作ってみて気づいたことはその場でマスキングテープに書き込んでいきました。内容としては

  • あと10cm長く
  • ネジが長すぎて収まらない
  • 構造を変えるのでこの部品は不要

などです。あとでCADですべて書き直すわけです。

たくさんの変更を行いましたが、しかし、いちばん大事なのは「ちゃんと作れそうだ」ということを自分と社内で共有できたことです。

めっきラインの自動搬送が一気に現実味を帯びてきました。

このまま行けるぞ、と思っていたところに…。

天井が下がってきた!

試作と試験がほぼ終了し、CADを書き直して再設計している最中に、工場レイアウトをしていた上司から電話がかかってきました。

「めっきラインの場所を移動したいんだけど、天井が一番低いところで240cmくらいになってもいけるかな…?無理ならいいんだけど」

試作は270の高さが確保できる前提で行っていました。天井高が低いからと言う理由で外注をやめて内製に切り替えたこの搬送装置で、あと30cm下げられるでしょうか?

第1回で計算したとおり、槽の高さが1.1m、フィルムの高さが60cmです。装置に使える高さは70cmしかありません。ということは装置の天井、レール、アーム、かごなどのすべてを合計して70cm以内に収めなくてはならないということです。

予定されていた床のコーティングの厚みや床の凹凸、天井の蛍光灯のカバーの位置まで確認した結果、ミリ単位まで突き詰めればぎりぎり入るという計算結果がでるまで、かなり何度も調整を繰り返す羽目になりました。

その結果として現在の搬送装置のクリアランスはかなり厳しいことになっています。

御覧ください。

天井とタイミングベルトの結合金具のネジ頭の隙間が2mm。

 

キャリッジと浴槽の上部との隙間が5mm。

実際に作成してみて、設計通りにクリアランスが存在していたときには心底ホッとしました。万が一干渉していたら調整する余地はほぼなかったわけですから。

 

さて、今回は試作を行った様子をお伝えしました。

様々な改良点を見つけつつ、大筋ではうまくいくと思っていたところに、設計の前提条件である天井の高さが変更になりました。そのため、高さを抑えるための再設計したあとは試作なしのぶっつけ本番となりました。ものを作っていればトラブルはつきものですが、やはり心臓に悪いことに変わりありません。

次回はハードウェアではなくソフトウェアの方、つまり実際の搬送装置の動作を決めていきます。

正直に言えばハードウェアの設計、試作、再設計、制作のすべてを合わせるよりも長い時間をソフトウェアにあてています。その一端が垣間見えるような記事にいたしますので、どうぞお楽しみに!

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