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【AMC インタビュー :1 (前編)】Panasonic 中西さんに伺う、AMC への期待

AMCへの期待について、各方面で活躍されていらっしゃる方にホットなお話しを伺うインタビューシリーズです。
第一回目のゲストはPanasonicの中西多公歳さんです。中西さんとは昨年9月に「HP 3D Printing and Digital Manufacturing Center of Excellence」をいっしょに視察し最先端のAdditive Manufacturingを肌で感じてきました。
MTRL TOKYOでの視察レポートのイベントの様子はこちらです。
今回は、Additive Manufacturingの社会実装を日本でどう進めるか、どう進んでいきそうか、お話を伺いました。
※この記事は、前後編の2回にわけてお届けします。

中西 多公歳さん

中西 多公歳パナソニック株式会社 インダストリアルソリューションズ社, 電子材料事業部 事業開発センター 事業企画部 事業開発課 課長
1982年大阪府生まれ。
中間機能材料専業メーカーにおいて、新素材開発、製品開発、新事業企画、マーケティング、海外営業など、複数の職務を経験。数多くのプロジェクトをマネージメント、特に、事業立ち上げの上流工程で実績を残す。2017年にパナソニックにキャリアを移し、材料メーカー起点からパナソニックらしい新しい社会貢献の基盤づくりを手掛ける。
Webサイト:https://www.panasonic.com/jp/corporate/is.html

インタビュアー:杉本 雅明

杉本雅明エレファンテック株式会社, 取締役副社長
東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 修士課程修了。
慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科後期博士課程単位取得退学。
2014年1月エレファンテック株式会社共同創業、取締役副社長就任。

アディティブマニュファクチャリングの印象をお聞かせください。
(杉本) パナソニックの中西さんです。
(中西) はい。パナソニックの中西です。
(杉本) よろしくお願いします。アディティブマニュファクチャリングって聞いたことはありますか。またどのような印象をお持ちですか。
(中西) まずご存じのとおり、もちろんアディティブマニュファクチャリングの言葉自体は知っています。2つの側面があると思っていまして、パナソニックという、ものづくりの企業から見ると、今後ものづくりの中でパラダイムシフトを起こせるとしたら、やはりこのアディティブマニュファクチャリングの技術というところからは目を背けられないんじゃないかということで、製造業として必ずコミットして向き合うべき技術、手法だと思います。
もう一つ、私自身が材料屋だというところもあるんですけれども、これほどマテリアルとエンジニアリングとデザインと、そういう本来であれば少し遠かったものが、かなり距離を近接にしてお客さまに価値を届けることが前提となっているプロセスというのは今までなかったので、マテリアルの部分でも非常に着目するべきだと考えています。もしマテリアルがサーキュラエコノミーとかSDGsに貢献できるような、そういうふうな変革の中核になるようなものと考えると、アディティブマニュファクチャリングがマテリアル、材料屋からしても、ちょっと目をそらすことはできないものだなというふうに思っています。

バルセロナにあるhp社 3D Printing and Digital Manufacturing Center of Excellenceを訪問(2019年9月)

どのくらいのスパン?
(杉本) ありがとうございます。今のは結構熱い話でしたね。今ご指摘のような三位一体のプロセスであるというのもAMの特徴が出ているということですね。
(中西) そうですね。これは多分、非常に熱い領域というか、どうなるかもちろん分からない領域かもしれないですけれども、真剣に考える価値は間違いなくある製造プロセスだと思っています。
(杉本) このチェンジっていつ頃から来ていつ頃には、もっと一般的になるみたいな、どういうタイムスパンで感じていますか。
(中西) 私自身の感覚から言うと、変革自体は始まっていると思っています。ずっとトライが続いていると思っています。
ただ、少し不幸があったなと思っているんですね。産業ユーズになる前にコンシューマーユーズがバーッと盛り上がりすぎてしまって、さまざまな要素技術の開発みたいなものが伴わない中で一回幻滅期を迎えたりしていたので、ちょっとリニアな成長にはならなかったなと思うんですけれども、スタート自体はもうしている。それが最終的にどれぐらい領域の中で一般的になるのかというところだと、どの産業でいくのかというのも結構効いていると思っています。割とオートモーティブ系とかモビリティー系が今は進んでいるので、その観点からすると2020年代の後半なので2027年とか2028年とか、それぐらいのタイミングになってしまうかなと思って。
加えて言うと、質問の中にP-Flexを知っていますかとか、そういうこともあったかと思うんですけれども、完全独立できるエレクトロニクスを全てアディティブでつくり上げるみたいな方向性での技術革新が来たら、もうそれが確立したその次の年ぐらいにはバズると思っているので、どっちの領域でこの技術が完成するのかに、ちょっと依存するのかなと思っています。
(杉本) なるほど、なるほど。ありがとうございます。今のお話からすると、要は中西さんの注目している分野としてはモビリティーとエレクトロニクスが結構、注目分野
(中西) そうですね。職業柄その2つの分野になっていますね。
(杉本) これは、せっかくなので時間を見ながら掘り下げちゃうんですけれども。
ちなみにアディティブマニュファクチャリングが量産車に対応されたのって、もちろんかなり少数限定車、境目は難しいんですけれども、どれからが量産車と言っていいんだと。やっぱりエポックメイキングなのはBMWのi8だと思っていて、あれが2018なんです。

量産車であるBMW i8に採用されたAMで製造されたドアに内蔵されるウィンドウガイドレール

(中西) そうですね。
(杉本) 本当に部品という感じですけれども、本当に部分的な採用ですけれども。今は、やっぱり10年後ぐらいのことを言ってもらっているじゃないですか。そういうものなんですかねという、何か雑談レベルの。
(中西) なるほどね。
(杉本) 10年ぐらいだと思いますか?という感じなんです。
例えばスマホの切り替わりがあっという間だったり、たいてい今、半導体とかも5年ぐらいしかもたないと言われている中で、やっぱりモビリティーにおいては10年はかかると。
(中西) モビリティー領域に関して10年かかるかどうかというところは、確かにおっしゃるとおりだとは思うんですけれども。でも、多分チャレンジングな取り組みで1年から2年みたいな形に今はまだなっていると思うんです。本当はアディティブを活用できていれば1~2年で自信を持って世に出せるみたいな形になるので、例えばフォルクスワーゲンとかトヨタのような大衆車を大量に市場に出しているところがカローラであったり、自分たちのメイン車種にそれを活用していくという状況にしようすると、今の品質の標準的な感覚で言うと5年から10年かかってしまう。そういう意味合いで、もうちょっと質問されていることをそのまま返してしまう感じになりますけれども、注目しているのが杉本さんになってしまう。実際ベンチャーのスピード感を持った上で大企業、マテリアルから最終エンジニア、要は最終のOEMぐらいまでを含めて枠組みをつくりながら、それを具体化していくという速度感で成功実例が出てくれば、これは(AMによる量産の一般化までの時間は)一気に狭まると思うんで、ここが多分今、瀬戸際だなと思っています。

新しい AM技術で勝者になるのは誰なのか

(杉本) これは今、結構鋭い指摘が来たなと思っていて。
今、普通のOEMと、とてもテンポ良くやったとして多分一番最初が2025とか2026というのは普通の超早いペースだと思います。
(中西) そうですね。
(杉本) だから、僕らも今悩んでいるのは、いろんなOEMさんたちと話もさせてもらっている中で、ぶっちゃけまだちゃんとコンタクトが取れていないというところの一つとしてテスラ。それから、中国のGeely (吉利)がどっちに入るか分かんないですけれども、そういう新興のEV勢力との対話ってまだ完全にはしていないんです。間接的ぐらいにしか。彼らの車のつくり方が、よく言われるんですけれども、どちらかというと家電寄りだそうですね。

新しい技術を素早く取り入れるTESLA

(中西) そうですね。
(杉本) 家電のエンジニアがいっぱいいてやっているというのも、大きいみたいなんですけれども。
(中西) 確かに。
(杉本) そうすると、技術の取り込み方とかペースが結構違うんで、実際は僕も中西さんのこれぐらいじゃない?という年限は、コンベンショナルOEMとやった場合は、実際こんなもんだろうと思います。
(中西) そうですね。
(杉本) ただ、チャレンジがあるとすれば、あるいはコンベンショナルなOEMたちもチャレンジしている点として、この新興のOEMのスタイルをどこまで取り入れられるのかというのは、各OEMもかなり意識しているなと思います。OEMとの対話の中で先鋭的なプロジェクトがご一緒できた場合は、これより早くなるかもしれないし。
(中西) それはそうですね。
(杉本) 新興OEM側とやったらもっと早いのかもしれなくて、ただ弊社の技術の成熟度も急に上がるわけじゃないから、新興OEMは、どこまで育てる気があるのかという話もあったりして。
(中西) そうですね。そういう意味ではないですね。
(杉本) そうですよね。乗っていくタイミングって重要だよねと思ってはいるんです。
(中西) 重要です、重要です。
(杉本) なので、ここ(2025-2026)からむちゃくちゃ早くなるということはないんですけれども、そういうところに持っていくときに、例えば仕上げている途中のものが急にすっと持っていかれるという話があると、2025-2026年より前に来るような打ち手を打てたらすごいなという感じだと思っています。僕らとしては、そういう新興OEMなのかサードパーティーとして参入するのかみたいなのがある場合は、さらにそれよりも前に入っていくというシナリオは全然あると思っていて。
実際にテスラが自動運転、パンドラの箱を開けちゃったみたいなのと一緒に、誰かがやり出して実績が積み上がり始めると全員動き出さざるを得なくなって動き出すので、さっきエレクトロニクスでもそういう表現がありましたが、始まっちゃえば始まる。そういう意味では、オートモーティブとエレクトロニクスって何が違うのというのは、結構元々は要求される信頼性が主に違ったはずなんです。これは結構変わっていく部分があるのかなと思っていて。さっき、ものづくりのパラダイムシフトっておっしゃられた。これとかなりリンクした話だと。
(中西) 要は今のわれわれの感覚での自動車、オートモーティブと言われているものとエレクトロニクスと言われているもののものづくりは、われわれの今イメージの中では全く別物になっているじゃないですか。じゃあ今後、次世代のモビリティーをつくるものづくりの在り方が何なのかというところは、多分別軸で考えないといけなくて、そのときにはコンシューマーエレクトロニクスとしての培われた技術も使われてきますし、コンベンショナルなオートモーティブから来るものもあるとは思うんですけれども、次世代のモビリティーをつくるための製造技術というところのあるべき姿は多分、変局点があると思うので、そこを誰よりも早くつかんだところが勝者的になるんだろうなとは思う。
(杉本) ありがとうございます。ちょっと深掘りしすぎちゃったけれども。ここは、やっぱり本質かつ面白いところだなと思いますよね。
(中西) そうですね。

後編では、AMの強み弱みを踏まえた上で、FAB LIFEな未来はどう展開していくのか、お話を伺います。
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