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【めっき自動搬送装置ができるまで】[6]

こんにちは。インターンの北島です。

秋口の涼しさを感じる季節になってきました。夏は終わりを感じると少し寂しいですね。

ここまでブログを読んでいただけている方、ありがとうございます。

第1回

第2回

第3回

第4回

第5回

 

前回はソフトウェアのアルゴリズムの話をしました。パズルを解いていくのが楽しい人にはアルゴリズムを考案する作業もきっと楽しいですよ。

今回はいよいよ工場でのライン立ち上げの話です。

これまでハードウェアの設計・試作、ソフトウェアの設計製作を行ってきましたが、ラインが立ち上がって生産開始できなければ遡ってやり直しが必要になります。

できればそんな事になりたくはないですが、何事もやってみるまで結果はわかりません…。

資材調達

基本的には試作と同じくミスミから購入したアルミフレームです。しかし試作は2m、今回は10mのラインですから、アルミフレームの数もすごいことになりました。

上の写真の左側の細長いダンボールの中身がすべてアルミフレームです。外枠の分だけでこれだけあります。写真の右側は浴槽です。

これらを開封して間違えないように組み立てていく必要があるわけです…。

大変そうに思えますが、実は注文時点で注文者の名前として「外枠前半」などの名前を振っています。CADの図面もそれに合わせて対応していますから必要なダンボールだけを選んで開封していくことができます。むやみに開封してしまって部品が散らばることを防ぐことができました。

組み立て

10mのラインを3分割しているとはいえ、高さが2.4m近くあるので一人では組み立てられません。予め5人ほどの方に声をかけておき、組み立ての際には資料を見てもらったりしながら協力して組み上げました。

部品同士の締結方法はネジ止めのみです。第2回でも書いたとおり、ネジは本質的に緩んでいくものなので緩みどめは必須です。試作のときと同様にネジに塗る接着剤タイプを用いました。

もう一つネジ止めで組み上げる際に気をつけなくてはいけないこととして、「仮止め」があります。これは「力をかければ動くが落下はしない」程度の締め付け方でいったんすべてのネジを固定することを言います。

つまり、最初からしっかりとねじを締めてはいけないということです。

というのも、最初から強く固定していってしまうと、少しずつずれていって最後に止める部分で穴の位置が合わないということが起こりえます。そこで無理やり止めてしまうと不要な力がかかった状態で固定されてしまうので、歪んだり壊れたりしてしまいます。

これを避けるために「力をかければ動く」程度の力でまずすべてのネジを通してしまうわけです。

次に、軽く揺さぶったりしてみて不要な力がかかっていないことを確認します。

その後で「本締め」です。一箇所固定したらそこから遠い場所を次に固定する、というように一部のネジだけ本締めされていることのないように、いろいろな場所のネジを少量ずつ締め込みます。

今回はこれだけの大きさのあるものだったので人数がいたことがとてもありがたかったです。一人だったら周りをぐるぐるあるきまわってネジを締めなくてはいけないところでした。

上の写真は全体の2/3が組み上がったところです。外枠の中に浴槽が収まった状態で組み上がっているのがわかるかと思います。

どうやってこんなふうに組み上げたかというと、

  1. 外枠を組み上げる。
  2. 所定位置に移動させる。
  3. 足元のフレームを外す。
  4. 浴槽を外枠の中に移動させる。
  5. 足元のフレームを戻す。

という手間をかけています。

第1回で述べた片持ちのアームであればここまで大変ではないはずですが、今回は天井高がギリギリなのもあって工夫が必要でした。

試運転

搬送装置は沢山の人の協力もあって無事に組み上がりました。

実はアルミフレームの組み立て以上に10mのめっきラインに電気配線を張り巡らせるのが大変だったのですが、こちらも沢山の人に手伝っていただけました。

また、かごの組み立ては同僚の方が手の空いているときに進んで手伝ってくれたので気がついたら終わっていました。ありがたかったです。

試運転の様子です。

水を入れた浴槽からかごを取り出して運べています。水切りのために上下動を入れているのですが、なんの効果もなさそうですね。現在はこの上下動はなくなっています。

このあと耐久試験代わりに延々とかごをラインに投入し続けたり、緊急停止やそこからの復帰、センサー異常に対するエラー処理などの試験を行いましたが、これらもそれほど引っかからずにクリアしてしまいました。

本番の大きさで試作をしたわけではないので、正直最初はもっとバグが見つかると思っていました。そのためにめっきエリアだけ早めに工事してもらったりしていたのですが。

クリアランス問題

天井高が低い問題でクリアランスが厳しいという話は第4回で書いたとおりです。

試運転をしている際になぜか「カタン」という音がする箇所があり、調べたところ、

タイミングベルト接続金具の六角穴付きネジの頭が接触していました。接続金具の厚みは計算に入れていたのですが、その固定ネジの頭は計算していなかったのでした。

幸い、頭の低い皿頭ネジに変更したところ接触しなくなったので現在は問題ないですが、やはり天井とのスペースは厳しいものがあります。

 

また、ラックを再設計してアクリル製に置き換えた際にはプーリーとの干渉が起きてしまいました。

生産設備はメンテナンスも必要ですし、「カイゼン」が常に行われる場所です。クリアランスが厳しいというのはそういった点でもときおり頭を悩ませます。

最後に

今回は実際にラインを立ち上げるまでの話を書きました。正確に言えばライン立ち上げの中で、浴槽に薬液を入れて試験生産したり、メンテナンスをしたり、事故対応を練習したりといったことも行っていますが、そちらは搬送装置とはあまり関係がないため省かせていただきました。

今回で搬送装置は完成!と言いたいところですが、生産設備は一回作って終わりではなく、常に「カイゼン」されていきます。なので搬送装置自体もすこし部品が変わっていたり、機能が追加されたり変更されたりしながら現在まで進化し続けています。

 

次回は搬送装置へ追加された機能やスマートファクトリー関連の機能について書きたいと思います。

自前開発だからこそできる、細かな調整やアップデートについてお伝えします。

お楽しみに!